コーヒーを淹れる器具として欠かせないドリッパー。家電量販店やホームセンターに行けば、必ずと言っていいほど目にする「HARIO」と「Kalita」の文字。この2つのブランドが、なぜこれほどまでに日本のコーヒー文化に根付いているのでしょうか。
今回は、それぞれの企業哲学や歴史的背景を踏まえながら、ドリッパー選びの本質に迫ってみたいと思います。
すべてはここから始まった ペーパードリップの起源
コーヒードリッパーの話をするなら、まず語らなければならないのがメリタの存在です。
1908年、ドイツの主婦メリタ・ベンツさんが「家族にもっとおいしいコーヒーを飲んでもらいたい」という思いから、世界初のペーパードリップシステムを発明しました。それまでは挽いたコーヒー豆をお湯に浸して茶こしで濾していたのが一般的でしたが、メリタさんは息子のノートの紙を使って、コーヒー滓が入らない画期的な抽出方法を編み出したのです。
これが現在みなさんが当たり前に使っているペーパードリップの原点。メリタは台形ドリッパーの基本形を作り上げ、今なお「1つ穴」にこだわり続けています。
しかし、日本のコーヒー文化を語る上で中心となるのは、やはり国産の2大ブランドでしょうか?
日本コーヒー界の2大勢力 ハリオ vs カリタ

HARIO(ハリオ)技術革新への飽くなき探求
会社の成り立ち 1921年創業のハリオは、もともと耐熱ガラス専門メーカーです。理化学用ガラス器具を作る技術をコーヒー器具に応用したという、ちょっと変わった経歴を持っています。
ガラスメーカーらしく「抽出過程が見える」ことを重視し、2005年にV60ドリッパーを開発。この円錐形ドリッパーは、60度の角度・スパイラルリブ・大きな一つ穴という独特な設計で世界中のバリスタに認められ、今や世界標準の地位を築いています。

企業哲学:「個性を引き出す」技術介入型 ハリオのドリッパーは、使い手の技術によって味をコントロールできる設計になっています。注湯のスピードや回数、お湯の温度管理など、バリスタの技術が直接味に反映される「技術介入型」のアプローチです。
同じコーヒー豆でも、淹れる人によって全く違う味になる。それがハリオの考える「コーヒーの楽しさ」なんですね。
商品展開の特徴 V60の成功を受けて、ハリオは積極的な商品開発を続けています。SUIREN(カスタマイズ性重視)、ペガサス(初心者向け台形)、MUGEN(1回注湯タイプ)など、それぞれ異なるニーズに応える商品を展開。ガラスメーカーならではの美しいデザインと機能性を両立させようとする姿勢が見て取れます。
多様な選択肢を提供することで、より多くのコーヒー愛好家のニーズに応えようという積極的なアプローチが特徴的です。
Kalita(カリタ)安定した美味しさへの一途な想い
会社の成り立ち 1958年、東京・日本橋で創業されたカリタは、最初からコーヒー器具専門メーカーとして歩んできました。社名はドイツ語の「Kaffee(コーヒー)」と「Filter(フィルター)」を合わせた造語。創業者の名前でもなく、メリタとも関係ありません。
喫茶店ブームに乗って業務用機器から始まり、その後家庭用器具も手がけるようになりました。60年以上、ひたすらコーヒーのことだけを考え続けてきた会社です。
企業哲学:「安定した美味しさ」再現型 カリタの代表的な102ドリッパーは、何十年も基本設計が変わっていません。なぜなら、最初から完成度が高かったから。台形・3つ穴という構造で「誰が淹れても同じ味を再現できる」ことを目指しています。

「お客さまに毎回美味しいコーヒーを」という想いから生まれた、まさに「安定重視」のアプローチです。
商品開発の姿勢 近年のウェーブドリッパーも「より安定した抽出を」という純粋な目的から生まれた革新です。見た目の美しさは結果的についてきたもので、機能第一主義の姿勢が貫かれています。

形状で見る2つのアプローチ
台形ドリッパーの特徴
- カリタ:3つ穴で空気が抜けやすく、あっさり飲みやすいコーヒー
- ハリオ ペガサス:2つ穴の初心者向け台形、メモリ付きで実用性重視
円錐ドリッパーの特徴
- ハリオ V60:技術によるコントロール性を重視
- ハリオ その他:MUGEN(1回注湯)、SUIREN(見た目重視)など
興味深いのは、カリタが台形にこだわり続けているのに対し、ハリオは円錐を基本としながらも台形にも進出していること。これも両社の姿勢の違いを表しているように思います。
使い分けの提案
カリタを選ぶべき人
- 「今日は確実に美味しいコーヒーが飲みたい」人
- 技術よりも安定性を重視したい人
- シンプルで長く使える道具が好きな人
ハリオを選ぶべき人
- 「抽出過程も楽しみたい」「冒険してみたい」人
- 技術を磨いて味をコントロールしたい人
- 見た目の美しさも重視したい人
実際、多くのコーヒー愛好家が両方を使い分けています。「安心できる相棒」のカリタと、「一緒に遊んでくれる友達」のハリオ、といった感じでしょうか。
コラム:知る人ぞ知るプロ仕様「コーノ」
最後に、忘れてはいけないのがコーノの存在です。
1925年創業の珈琲サイフォン株式会社による「コーノ」は、もともとプロ用に作られていたフィルターが愛好家の間で評判となり、1973年に一般向けに販売開始されました。
ただし、「コーヒーを美味しく淹れる方法を丁寧に伝えながら器具を売りたい」という同社の方針から、現在でもホームセンターなどでは入手困難。コーヒー専門店や通販でしか手に入らない、まさに「知る人ぞ知る」存在です。

円錐形・大きな1つ穴でハリオに似ていますが、リブの形状が違い、よりネルドリップに近い味わいが楽しめるとされています。こだわりの一品を探している方は、ぜひチェックしてみてください。
まとめ:それぞれの哲学を理解して選ぼう
ハリオとカリタ、どちらも日本が誇るコーヒー器具メーカーですが、そのアプローチは対照的です。
- ハリオ:技術介入型。使い手の技術で個性を引き出す
- カリタ:安定重視型。誰でも美味しく淹れられる
どちらが優れているかではなく、あなたのコーヒーライフスタイルに合う方を選ぶことが大切です。
忙しい朝にも確実に美味しいコーヒーを飲みたいならカリタ。週末にじっくりとコーヒーと向き合いたいならハリオ。そんな使い分けも楽しいですね。
メリタ・ベンツさんの「家族にもっとおいしいコーヒーを」という想いから始まったペーパードリップの世界。その精神は、形は違えど、現代の日本メーカーにもしっかりと受け継がれています。
あなたも、お気に入りの一台を見つけて、素敵なコーヒータイムを楽しんでみませんか。
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