ポチッ。その瞬間の葛藤
購入完了の画面を見つめながら、私は一瞬我に返りました。 9250円。コーヒーメジャースプーン1本に、です。
「家族に何て説明しよう…」 「この金額でコンビニコーヒーが92杯飲める…」 「100円ショップにだって売ってるのに…」
でも不思議なことに、後悔はありませんでした。むしろ、なぜこのスプーンが欲しくてたまらなかったのか、届いてから分かったんです。

きっかけは岩崎泰造さんの発信から
このスプーンを知ったのは、コーヒーインフルエンサーとして活動されている岩崎泰造さんの発信からでした。YouTubeチャンネル登録者数10万人を超える「コーヒーを愛しすぎた男」として知られる岩崎さんは、私がコーヒーの世界により深くハマるきっかけを作ってくれた方なんです。
以前、岩崎さんがプロデュースするTCLロースティングファクトリーとパーラーNo.3を訪問した際も、スタッフの方々から感じたコーヒーへの深い愛情に感動したものです。そんな岩崎さんが手がけるNOUDOブランドからリリースされたのが、この真鍮製コーヒーメジャースプーンでした。
商品の開発背景 – 二人の職人の化学反応
この商品は、真鍮ジュエリーのカリスマ PROOF OF GUILDとコーヒーを愛しすぎた男 TAIZO IWASAKI の化学反応によって生まれた奇跡のコーヒーメジャースプーンなのです。
NOUDOの公式サイトによると、デジタルで管理されることの多いスペシャルティ時代においてあえてアナログであることにこだわり、焙煎度によって体積の異なるコーヒー豆を正確に計るという機能性をシンプルなデザインに内包しましたとのこと。
まさに現代のコーヒー文化に対するアンチテーゼとも言える商品コンセプトですね。
真鍮という素材の魅力

なぜ真鍮なのか。この疑問に答えるために、まず真鍮という素材について触れておきましょう。
真鍮は銅と亜鉛を混ぜ合わせた合金で、別名「黄銅」とも呼ばれます。私たちにとって最も身近なのは5円玉ですね。トランペットなどの金管楽器にも使われており、美しい音色を奏でる素材としても知られています。
真鍮の最大の魅力は、経年変化を楽しめることです。最初は黄金色に輝いていた表面が、使い込むうちに徐々に深みを帯びた色合いに変化していく。まるで革製品のエイジングのように、時間の経過とともに味わいが増していくんです。
この変化は表面の酸化によるもの。空気や人の手に触れることで、黄金色から飴色、ダークブラウン、そして墨黒へと、長い時間をかけて表情を変えていきます。その人の使い方、環境によって変化の仕方が違うため、世界にひとつだけの風合いを持つようになるのです。
しかも、研磨すれば元の輝きを取り戻すことができる。新品の輝きを保ちたければ定期的にお手入れし、エイジングを楽しみたければそのまま使い続ければいい。所有者の価値観や気分に合わせて表情を変えられる、なんとも懐の深い素材です。
コンビニコーヒーが美味しすぎる時代の矛盾
今やコーヒーを飲むのって、本当に手軽になりましたよね。スーパーやコンビニで、マシンのボタンをポチッと押すだけ。ペットボトルや紙パックでも美味しいコーヒーが手に入る。
コンビニコーヒーなんて、正直めちゃくちゃ美味しいと思っています。100円台であの品質って、よく考えると奇跡的ですよね。
そんな便利な時代に、なぜわざわざ豆を挽いて、お湯を沸かして、時間をかけてドリップなんてするのでしょうか。効率だけを考えたら、完全に手間のかかる行為です。
でも、その「手間」にこそ価値があるんじゃないか。そんなことを、この真鍮のスプーンを手にして感じたんです。
職人の手仕事が生み出す温かみ
このスプーンには「重厚感のある伝統的な鋳造手法と一点一点全て職人の手によって仕上げられた」と説明されています。機械による大量生産ではなく、職人さんが一つ一つ丁寧に作り上げているんです。
だからこそ、微妙な個体差があり、工業製品にはない温かみがある。手に取ると分かるずっしりとした重み、表面の微細な凹凸、真鍮特有の色合い。これらすべてが「人の手で作られた」ことを物語っています。
コーヒー一杯を淹れるために、こんなスプーンは必要ないかもしれません。でも、このスプーンを使ってコーヒーを淹れる時間が、ただの「作業」から「儀式」に変わるんです。
「わざわざ」淹れることの豊かさ
自分で豆から、いや粉からでもいいんです。ドリップして飲んでみる。このアクションって、サウナで「ととのう」瞬間に似ていませんか。
茶道のような、一つ一つの動作に意味を見出す感覚。お湯を注ぐ音、立ち上る香り、ゆっくりと落ちていく雫。この時間が、忙しい日常の中で唯一の「余白」になる。
「でも、ちゃんと淹れるのって難しそう…」
そんな心配は要りません。コーヒーのドリップに、厳格なルールなんて必要ないんです。最低限押さえておけばいいのは:
- お湯の温度は90-95度(沸騰直後でOK)
- コーヒー粉に対してお湯は15-18倍(15gの粉なら250ml程度)
- 蒸らしを30秒、その後ゆっくり注ぐ
これだけです。あとは自分ルールで楽しめばいい。
9250円の真鍮スプーンが教えてくれたこと
で、そのコーヒーを淹れる時に使うのが、このメジャースプーン。役割はシンプル、コーヒー豆の重量を測ることです。
「でも100円ショップにもあるじゃない…」
その通りです。実用性だけを考えたら、正直どれでも同じ。デジタルスケールを使えば、どんなスプーンでも正確に測れますからね。
でも、コーヒー沼にハマった人なら分かると思うんです。このスプーンには、ただの道具を超えた何かがある。
手に取った瞬間の、ずっしりとした重み。真鍮特有の、使い込むほどに深みを増す色合い。工業製品にはない、微妙な手作りの温かみ。なんとなく「コーヒーにそこまで背伸びしなくても良いよ。でも、丁寧に向き合ってみない?」って思うことができました。
モノづくりと価値について考えてみた
少し前まで、日本はデフレの時代でした。なんでも価格競争、安ければ安いほど良い。そんな風潮がありましたよね。
確かに、価格が高くなると消費者としては厳しい。それは間違いないです。
でも、自分も焙煎コーヒーを作っている身として思うんです。正当な価値を込めて製品を作り、それに見合った価格をつけるって、とても真っ当なことなんじゃないかって。
この9250円のスプーンを見ていると、作り手の想いがひしひしと伝わってきます。「ただのコーヒーメジャースプーン」に見えるかもしれませんが、「しっかりと作り手の想いが反映されたコーヒーメジャースプーン」なんです。
素材の選定から、形状の設計、仕上げの工程まで。きっと何度も試行錯誤を重ねて、この形にたどり着いたんでしょうね。
効率化時代の「贅沢」とは
コンビニコーヒーが100円台で飲める時代に、9250円のスプーンを買う。
客観的に見れば、確実に「贅沢遣い」です。でも、この無駄にこそ、現代人が忘れがちな豊かさがあるんじゃないでしょうか。
効率化、時短、コスパ。これらがすべて悪いわけではありません。でも、すべてをそれで割り切ってしまうと、何か大切なものを失ってしまう気がするんです。
手間をかけること。モノに愛着を持つこと。作り手の想いを感じること。時間をかけて味わうこと。
これって、お金では買えない価値ですよね。
自分ルールで楽しもう
このスプーンを使ってコーヒーを淹れていると、ふと思うんです。
「完璧である必要なんてない」
客観的なルールや、誰かの評価なんて気にしなくていい。自分が美味しいと思えば、それで正解。自分が心地よいと感じる時間を過ごせれば、それで十分。
9250円のスプーンが、そんなことを教えてくれました。
まとめ:プライスレスな価値と私たちが選ぶべき道

結局のところ、このスプーンの真の価値は「重量を正確に測る」ことではありませんでした。
忙しい毎日の中で、ほんの少しだけ立ち止まる時間をくれること。手間をかけることの豊かさを思い出させてくれること。モノづくりに込められた想いを感じさせてくれること。職人の技術と情熱を日常に取り入れられること。
そして何より、時間をかけて自分だけの風合いに育てていく楽しみを与えてくれること。
効率化、デジタル化が進む現代だからこそ、あえてアナログな道具を選ぶ。その選択が、私たちの生活に深みと豊かさをもたらしてくれるのではないでしょうか。
9250円。確かに高額です。でも、これから何年、何十年と使い続けることを考えれば、一日あたりのコストはコンビニコーヒー以下になるかもしれません。
そう考えると、9250円って決して高くないかもしれません。
いや、プライスレスかもしれませんね。
コーヒーを淹れる時間が、あなたにとっても特別なひとときになりますように。そして、効率だけではない、本当の豊かさとは何かを考えるきっかけになれば嬉しいです。
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